デザインリサーチリサーチ

フィールドワークの「観る」という行為は、アートかサイエンスか

IMG_3852

エスノグラフィなどのフィールドワークの中で大切なことは、限られた時間の中で対象者を深く理解することです。

インタビューで話しを聴くことでその場にいる人々の体験や考えを聴くことができます。それに加え、言葉になっていない要素を觀察し、示唆を得ることも大切です。何を見るのかについては、事前に計画を立てておくことができるでしょう。

では、どう「観る」かについて何か方法があるのでしょうか。

元ノキアやfrogでデザインリサーチャーとして活躍されているヤン・チップチェイス氏は、クリエイティブではリサーチであれ結果の解釈であれ、直感的なひらめきの感覚が大切だと述べています。

「クリエイティブのプロセスでは、直感が何よりも重要です。直感とは、人生経験に根差した、はっきり文章化できないにせよ『これは正しい』とピンとくる感覚のことです」[参考1]

「ピン」と来る感覚を導くためには、「観る」コツはあるのでしょうか。やや専門分野は異なりますが、MITの組織変革の研究者オットー・シャーマー博士も著書の「U理論」で示唆に富んだ指摘をしているので引用して見ようと思います。

41xSKFggtBL._AC_UL115_

「まず徹底的に観察する。それから一方外に退くんだ。うまくいけば内面の深い場所にある何かに触れることができる」[参考2]。

そのための三原則をあげています。

【観ることの三原則】

・問いと意図を明確にする

「創造的な設計プロセスの質は、出発点を定義する問題提示の質で決まります」(IDEOの設計者)。「私は(オットー氏)、創造的であるということは、いつでもあらゆる可能性に開かれていることだと思っていた。そうではなかった」

 

・問題の状況に入り込む

現場に入っていき間近で対象を知覚する。知覚は身体が積極的に関わる活動であるから、他者に任せず一人称の視点で臨む。

 

・判断を一次停止し、好奇心の感覚を目覚めさせる

好奇心に従い心を開きながらも、「人間の頭は自分がなじんできた枠組みに合わないことをすぐに忘れてしまう」ため判断するのではなく、記録に徹する。

 

「U理論」は「過去や偏見にとらわれず、本当に必要な『変化』を生み出す技術」と紹介されていますが、その初期の対象の状況や課題を理解して自分ごと化していくアプローチは、クリエイティブな取り組みでも活用できる考え方ではないでしょうか。

 

また、芸術の分野でも画家絹谷幸二氏がスポーツと美術の共通点として「見る」をテーマに興味深いことを述べています。

「野球選手も画家も『見る』ことが大事という点では同じだ。私は講演で『物を見ているのは目ではない』と話したことがある。見ているのは眼の奥にある柔らかな脳なのであり、割れたガラス片を見ただけで頭が痛くなる気がするのはそのためだ。見るとは、その場の状況をとらえて考えることである。」[日経新聞・私の履歴書]

ID野球を提唱した元プロ野球監督の野村克也氏も、球を見るというのは、前の打席、もっといえばこれまでの打席、前の打者など様々な流れの中で見て洞察し、対策をたてて臨むものだと述べています。目の前で起きていることの意味は、状況次第で異なるのです。觀察と洞察の繰り返し。

 

さて状況の中で、觀察したことを真摯に記録するには、美大生やデザイナーであればリフレクティブ・ダイアリーやスケッチブックを描きますし、我々もノート書いたり、ポストイットを使って見えるようにして共有します。

見る人によって気づくことが異なるから面白い。だからこそどうやって觀察するかにも増して、誰が何を見るかが大切です。

オット・シャーマ氏は、それを「ともに観るアート」と表現しています。ユニークな視点で物事を見られるチームを編成していけば、觀察結果にも多様性が生まれ、示唆も増える。その多様性は、マーケターやエンジニア、デザイナー、アーティストなど、好奇心の向く方向、着眼点、記録の方法も多様であることが価値になるのでしょう。

そういう意味では、リサーチで「観る」ことは計画されたアートだということもできますね。

 

参考リンク

1.革新を起こしたい大企業にありがちな5つの誤解[日経ビジネス・オンライン]

2.C・オットー・シャーマー著「理論――過去や偏見にとらわれず、本当に必要な「変化」を生み出す技術