リサーチには、様々な手法がありますが、商品やサービスを新たに創りだす場合や既存のものを大幅に改善して刷新したいと考えた場合、次の表の4段階が考えられます。市場や顧客に大きなインパクトを生むためには、そもそもそのチャンスがどこにあるのかを探しだす必要があります。
「機会の定義」段階で多く用いられるのが、エスノグラフィーやデザインリサーチのアプローチです。
革新的な企画をするためには、ひらめきを発端としたアイデア、そしてそのアイデアの磨きあげや商品・サービス化のプロセスとなりますが、ひらめきを見つけるのは容易ではありません。既存のユーザーの満足度アンケートの結果を見ても、既存路線の評価の域を出ませんので、改善には役立っても新しいものを生み出すには参考にならないでしょう。
ビジネスの現場では、よく「それはどのくらいの顧客が言っているのか?信頼に足るデータなのか?」という声があがります。この問いかけは、正しいともいえるし、正しくないとも言えます。上の表であれば、イノベーションを証明するための段階では、正しく、それ以前のまずはイノベーションの種見つける段階では正しいとはいえないでしょう。
統計に正しいかはわからなくても、まずはアイデアを創りだすためのヒントをユーザーの生活の文脈を観察するところからはじめます。リアルな場に入り、観察し問いかけることで、ユーザーの困っていることや何気なくやっている行動が見えてきます。ユーザーの気持ちに共感できるレベルまで入り込めたら理想です。
・製品やサービスが利用の前後も含めどのような生活環境の中で使われているのか[文脈・タッチポイント理解]
・どんな気持ちが生まれているか[情緒理解]
・ユーザーの行動価値観[メンタルモデル把握]
・想定外の使われ方はないか
など
対象者をどうやって選ぶかも、平均的な意見を持つ人ではなく、ヘビーユーザーやユニークな使い方をしているユーザーが適しています。結局、いくら大人数の人を観察し、インタビューしたところで、想定内のことだけがわかってもアイデアを生むための刺激にはなりません。この辺りの発想が、伝統的なマーケティング・リサーチとは一線を隠すところだと思います。市場の姿を科学的に再現して意見を収集するのか、偏っていることをむしろ有効利用してアイデアを生むのか、デザインリサーチと呼ばれる所以もそんなところにあるのではないでしょうか。
私もイギリスの芸大に留学していたとき、私も含めアートやデザイン専攻の学生たちは、独自の作品を生むために日常生活でいつも面白いものを見つけてはスケッチブックにイラストを描いたり、切り抜きを貼って、コンセプトを練り上げていました。デザイン領域のリサーチとはまずこうしたところからはじまるのです。社会科学のリサーチ方法論を拠り所にしていた私は、その自由さにはじめ驚きました。しかし、フレームを外して収集し、統合し、解釈しというプロセスが新しいものを生み出すには不可欠です。
このような取り組みが、ビジネスの領域にも入ってきたと言えると思います。