ディスカッションガイドでインタビューの質を高める

 

ディスカッションガイドをつくる目的

デザインリサーチやエスノグラフィック・リサーチでフィールドに入るときは、観察したい内容、インタビューで聴きたい内容をリスト化しておくと便利です。

プロジェクトメンバー内で、何がリサーチトピックとして重要なのかを可視化しながら確認することができます。また、質問の意図をはっきりさせておくことで、質問の仕方を工夫することもできます。

チームメンバーが実行する際には、クオリティの担保にもなります。

日本語ではインタビューフローやディスカッションガイドと呼ばれたり様々です。調査手法の選択によっても、作り方が変わりますが、総じてアンケート調査ほどガチガチに選択肢を作り込むことはしません。

社会科学の研究分野では、構造化、半構造化、非構造化インタビューと大きく3つのタイプの質問の構成方法があります[The Practice of Social Research, Earl Babbie]。定量調査で用いられる構造化インタビューは、質問を選択肢に落とし込み、自由記述設問と合わせて流れが100%決められているため構造化されているといいます。

一方で、デザインリサーチやエスノグラフィックリサーチでは、半構造化程度のインタビューが現実的です。

対象者のなるべく普段の思い、行動の流れに沿いながら、ありのままを捉えることを目指すリサーチですので、インタビュー対象者が話しやすいように流れをある程度相手に委ねることが大切です。

一方で、そうすると時間内にリサーチが終わらなかったり、本来聴きたかったことが抜け落ちる可能性が高くなりインタビュー中にパニックになってしまうかもしれません。そのような自体が起きないように、事前にプロジェクトメンバーとプロジェクトで明らかにしたい目的をベースに、ディスカッションガイドを作成し、手元に持っておくと安心でしょう。

実際、インタビュー中は相手との会話に没頭していきますので、ディスカッションガイドを見ながらやることはないかと思います。それに、あなたがもっと先で尋ねようと予定していた話題を、対象者が突如として熱く語り始めるかもしれません。そんなときは、相手の話を尊重し傾聴した方が、面白い話がでてくる可能性が高いと経験的に思います。ディスカッションガイドを練り上げておけば、そのプロセスの中で、何が質問として重要だったか頭の中に入っていきますので、話が多少とっちらかっても大丈夫であることが多いです。


作り方のコツ

あるプロジェクトからディスカッションガイドの事例を紹介いたします。図1をご覧ください。

  • なるべく1ページで収める:1ページにしておくと便覧性に優れますので、仮に、インタビューの質問順序が入れ違ったとしても、抜かした質問を確認しやすいです。複数ページになったときは、フィールドには短縮1ページ版を作成しても可。
  • ステップ、トピック、質問要素、意図、時間:質問の意図を構造化しておくと、プロジェクトにおいて洞察が必要なトピックの抜けやアイデアに気がつけます。また、意図を明確化することで、よりよい質問内容を考えることができます。場合によっては、質問では明らかにならないため観察など別のアプローチが有効だと気がつくこともあるでしょう。チームでインタビュアーが入れ替わるときも、意図がわかっていれば、それに沿ったより気の利いた質問を思いついて聴くこともできるます。目安の時間を記載しておくことで、プロジェクトメンバーやクライアントとの間で、トピックごとの重要度の重み付けの合意形成にもなります。
  • ウォームアップ:対象者との関係性を短時間で築くための時間を大切にすることで、その後得られる情報の量や深さが変わってきます。
  • メイントピック:そのものずばり、プロジェクトの本題についての質問をする時間です。メイントピックをカバーする質問要素がリストアップされているか何度も検討してみましょう。
  • ディープダイブ:お宅訪問や店舗、オフィスなど対象者の生活環境でインタビューを行う場合は、その環境に深く入って案内してもらう時間です。聴くだけではなく、見ながら聴くことでより生々しい気付きが得られる時間です。
  • クロージング:抜かした質問を改めて尋ねたり、同席しているメンバーからの追加の質問をしたり、全体を通じて尋ねてみたくなった質問を尋ねるための予備の時間です。対象者に、言い足りないことを追加で話してもらう自由時間に当てても思わぬ発見につながる可能性があります。
図1. ディスカッションガイドの例:「働き方に関するリサーチ」より
 

使い方のコツ

  • インタビュー中はできれば見ない:インタビュー中は、手元に持っておいてもよいでしょうが、対象者に対してあまり目立たないようにした方がよいでしょう。質問がたくさん準備されているので手っ取り早く答えなければ、という心理的なプレッシャーを与えず、より自然な環境でお話してもらえるのではないでしょうか。それに、用意してきたものを読み上げるようだと、自然な会話は成立しずらく、引き出したい本音から遠ざかってしまうでしょう。
  • アドリブを大事に!:デザインリサーチやエスノグラフィック・リサーチでは、プロジェクトメンバーが思いもしなかった現場でおきている生々しい現実を拾い上げることが趣旨です。そのため、事前に骨子をまとめたディスカッションガイドはあくまで聴きたいことを半分程度構造化したものと捉え、対象者が話し始めた意外な事実を尊重して質問を続けてみてください。もちろん、プロジェクトの趣旨と全く関係ないテーマであれば、ディスカッションガイドの質問に戻っていただいて結構です。そのためのガイドです。そのためには、事前にクライアントにディスカッションガイドの使い方について説明をしておいてください。そうでないと、書いてあるのに質問が漏れていた、とクレームになるかもしれません。全部まんべんなく尋ねても面白い発見のないリサーチより、面白い発見が出てくる実りある方が最終的には好まれるのは自明です。
  • 振り返り、アップデートする:一回目のインタビューが終了したら、ディスカッションガイドも見直しをかけてください。流れが明らかにスムーズでなかった箇所や、新たに追加したいトピック、質問、時間配分の再調整をしておくと次回以降より質の高いインタビューができます。
  • フィールドワークチームで熟知:内容を同席するメンバーがしっかり抑えていることで、追加の質問や結果の解釈の質があがります。
 

最後に

今回ご紹介したディスカッションガイドは、フォーカス・グループインタビューのインタビューフローのように事細かに質問が詰まった数ページに及ぶものより、よりオープンな形式です。だからといってカジュアル版かというと、必ずしもそうとも言えず、骨子をしっかり作り確認しやすさとその場で創造をふくらませる余白に優れています。

我々の関わるデザインリサーチでは、リサーチ目的を記した概要1ページと、ディスカッションガイドが1〜2ページ程度で構成されることがほとんどです。また、クライアントメンバーもインタビューを担当するメンバーが入る際は、質問文まで書き下す場合もありますのでケースバイケースとも言えます。なお、デザインリサーチをリードするトップレベルのデザインファームでも、同様フォーマットが使われているようです。

リサーチのデザインについてご不明な点がございましたら、ぜひお問い合わせください。

なおディスカッションガイドの拡張として、口頭での質問以外に、カードやワークシートを活用しながら、想像力を広げるための刺激物を活用するとより質の高いインタビューができます。その方法については、また後日紹介させてください。

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