リサーチで「メンタルモデル」を捉えると、次の打ち手が見える

顧客の思考習慣「メンタルモデル」

ターゲット顧客を決めるのは簡単ではありません。一つの商品を皆が買っていた昭和のマスマーケティング全盛時代は過ぎ去り、同じ性別、年代、年収であっても好みは多様化し、今やセグメントマーケティングも効かなくなったと言われています。

しかしながら、全ての商品やサービスがOne to Oneでカスタムメイドされることは現実的でもありません。顧客のグルーピング(セグメント)をどのような方法と切り口で捉えるかが問われているのだと考えます。

特に新商品やサービスを企画する際には、属性や現在提供されているサービスや商品の所持だけではなく、メンタルモデルを中心に顧客像を設定することが有効です。メンタルモデルは、行動につながる価値観や思考習慣のことを意味します(引用)。調査で発見した対象者の心の本音を組み上げることでつくられます。このメンタルモデルを持つ顧客像が設定できていると、まるで小説の登場人物のように人格を持ち何を考えそうか想像することができます。

たとえば、あなたはワインメーカーのマーケティング担当者だとします。ワインを通じて新しい体験を顧客に提供する新規事業のミッションを得ました。

まずは、いつもの習慣で自社のデータベースにある会員データ分析をしてみることにしました。30代前半の男女で年収600万円以上で平均価格以上のワインをいつも購入する人たちをターゲットにしてみました。

しかし、ふとこの条件でワインを好む人達は、みな同じ動機で購入し飲んでいないであろうと気付きました。年齢や性別、価格、重視点といった指標を元に考えても、どうもその背景の状況が見えてきません。

 

動機に着目する

そこで、仮ターゲットと設定した30代前半の男女それぞれ5人ずつ合計10人にインタビューを試みました。いつもはワインについて尋ねていましたが、視点を広げるため生活全般に関するインタビューしてみると、次の3つの欲求に集約されていくことがわかりました。同じ属性の人々を対象にしたにも関わらず、それぞれの欲求をどの程度強く持っているかによってワインに求める期待が異なることがわかりました。

  • ポリフェノールで健康を維持し疲れない身体をつくりたい[達成欲求]
  • 仲間に教養人として尊敬されたい[承認欲求]
  • 家族や仲間との場を楽しみたい[コミュニケーション欲求]

健康欲求が強い人は、心身の健康がよい仕事ができるコンディションをつくるという動機がわかり、ワイン以外にもエクササイズを欠かさないことがわかりました。また、承認欲求の高い人は、仲間のネットワークの中で密かにトレンドを生み出すことに誇りをおっており日々珍しい体験をしてはSNSで頻繁にシェアしているなど、行動の動機を理解することができました。

新規サービスの企画は、これら別々のメンタルモデルを持つ顧客像を満足させるために、何ができるかを考えていくことにしました。そのためには、顧客像ごとの体験を製品やサービスとの接点を点でなく、体験の線の形式で捉えるとよりいつどのような体験で、顧客は何を感じているだろうかとうことが具体的になります。

 

エスノグラフィーを活用し本音と建前を探る

エスノグラフィックリサーチでは、実際に対象者の生活環境で行われるので、メンタルモデルの構築に役立つ本音と建前を暴きやすくなります。

たとえば、ワインに関するインタビューで、「自分も家族もできるだけ質のいいものだけを口にするようにしているので、ワインも一定価格以上のもの、食材もオーガニック、混ぜ物の多い発泡酒は飲みませんね」という発言があったとします。
しかし、実際にはキッチンには買い置きのカップ麺が積みあがり、冷蔵庫には清涼飲料水があったりと、ギャップが発見できます。

そこについて少し質問を続けてみると、「他人には自分の印象が悪くなるから言えないけれど、たまには不健康なものがどうしても好きで辞められない」という相反する本心がわかりました。この人にとって、ワインは食生活の不摂生を隠し自分をブランディングしてくれるアイテムだったのです。

そのようにして得た発見を類似したもの同士で分類を繰り返し収束させていていきます。それにはKJ法が役立つでしょう[「発想法 改版 – 創造性開発のために」 ]。

 

メンタルモデルをベースにペルソナをつくる

下の写真のポップアップスタジオの事例は、10名の自宅訪問とインタビューを行い集めた情報を黄色のポストイットで記載し、青色でその意味を解釈した洞察を記しました。黄緑色は、クライアントと週一回程度打ち合わせを行ったり、ふらりと立ち寄ったときに思わず気がついたことを足してもらうことで気づきの幅を広げています。

ポップアップスタジオ(プロジェクトルーム)

メンタルモデルを理解していくうえで重要なのは、青色のポストイットの中でも人の行動や意思を決めている本音の部分です。これらを別の模造紙に集めていきKJ法により類似性でクラスターといわれるグループを作っていきます。それを繰り返していくと、メンバーの中で、ペルソナ(アーキタイプ)と言われる人物像が人格を持って見えてきます。もし、この人格が明確に浮かんでこない場合は、インタビューのサンプル数が足りていないか、適切な対象に当たれていないか、もしくは分析解釈をやり直す必要があるでしょう。あと、この作業には広いスペースで集めた情報の全体が見渡せることも大切です。

ペルソナとサービス体験事例

参考文献

メンタルモデルを構築するには、インタビューにおける質問や観察が重要です。質問を考える際に視点として、心理学や社会心理学の理論をいくつか心に留めておくとよいと考えます。たとえば、下記に上げる枠組みはリサーチやその結果をまとめる際の着眼点として役立ちます。

  • マズローの欲求段階理論:欲求の源泉、過程を説明する伝統的理論。[Maslow’s hierarchy of needs
  • Japan VALS(Value and Lifestyle):人のモチベーションの源泉を自己表現、社会達成、伝統価値の視点で分類。定量アプローチのセグメンテーションですが理論が参考になります。[Japan VALS byStrategic Business Insights.
  • ロジャースの普及理論:イノベーターからフォロワーまで、市場での普及の流れを説明している古典的枠組み。[普及学
  • トーマス・ヴァレンティの普及理論:ソーシャル・ネットワーク社会の普及の流れについて説明。イノベーターからフォロワーへの普及流れが一通りではなく、多様になったことが示されています[「サイレントニーズ」ヤン・チップチェイスら著
  • KJ法:メンタルモデルをまとめてグループ化する際に活用「発想法 改版 – 創造性開発のために」
  • インタビュー対象者のサンプリングについて:誰に何人くらいヒアリングするとよいのかヒントが記されています。4〜6人とよく言われますが、どういつの行動や選択をしている、人口学的属性を揃える必要があるかなど考える要素はあります。「メンタルモデル ユーザーへの共感から生まれるUXデザイン戦略」

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください